小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

第二十二話(4)~鬼~

「そしたらこの人がね~、「お前のためなら人の身などいつでも捨てられる」だって。凄くない?」
 鈴鹿と対面の姫様はにこにこと聞いている。本当に楽しそうに。時折、うんうんと相づちをうつ。
 鈴鹿の隣の大獄丸は呆れ顔。さっきからずっと酒をあおっていて。
 同じく隣の俊宗は落ち着いた顔。
 ちょっと耳が赤いが。
 姫様の隣の朱桜は、ずっと鈴の頭を撫でていた。
「その鬼になるというのは誰でもできるのですか?」
 不意に朱桜が声を出した。
「へ?」
 話を遮られて鈴鹿御前は不機嫌に。
「誰でも鬼になれるのですか?鈴鹿御前様」
「誰でも出来るわけではありません。鬼になるということは難しいことですよ」
 鈴鹿の代わりに、俊宗が答えた。
「そうですか・・・」
 そう言うと、朱桜は口を結びうつむく。
 大獄丸と鬼姫が顔を見合わせた。
 鈴が鳴く。
 姫様が朱桜をじっと見た。

 帰りは俊宗が送ることになった。
「兄上が酔っちゃったからね。お前さん、彩花ちゃんが可愛いからって・・・駄目だよ」
「そんな心配するなよ」
 そういう鈴鹿の顔も真っ赤である。
「よろしくお願いします」
「さ、行きましょうか」

「朱桜ちゃん?」
 牛車の、中。二人だけ。
「はい」
「お母様のこと、考えてたの?」
「・・・はい」
「そう」
「父さまは・・・・・・母さまを鬼になさろうとしたのでしょうか?」
「多分、お考えになられたでしょうね」
「実際に行ったのでしょうか?」
「朱桜ちゃんのお母様はご病弱だったと聞きますけど・・・」
「それでも・・・・・・失敗する確率が高くても実際に行ったのでしょうか?」
 声が大きくなった。
「朱桜ちゃん・・・」
「彩花さま、ごめんなさい。でも、人が鬼になることが出来るなんて。そんな話・・・・・・父さまから聞いたことがなかったから」
 鬼になることが出来れば、母さまは今も生きていたはず。今も。
「そのうち酒呑童子様が話してくださるでしょう。誰でも、誰でも話し辛いことはありますよ。私の両親のことですとか」
「・・・・・・」
「今度会ったとき、聞いてみましょうか。もしかしたら答えてくれるかもしれませんよ」
「はい」
「着きましたよ」
 俊宗の声。
「さ、帰りましょう」
「はい」

 皆の出迎え。
 姫様と朱桜が門をくぐると、牛鬼がゆっくりと去る。
 姫様が頭領の顔をじっと見つめた。
「十六になったら、ですよね」
 妖達が、固まった。
「・・・・・・ああ」
 ただ、それだけ。
 短い会話。
 姫様はすたすたと黙って寺の中に。
 一息おいて、皆も寺の中に入っていった。