小説置き場2

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狼風奇譚~第5話~

 森に入って三十分ほどであろうか。何も変わったことはなかった。やはり単なる噂話、そう弟は思っているだろう。風華は、弟のほうを見ないようにしながらそのようなことを考えていた。
「姉さま」
「なんだ」
「そろそろ、帰りませんか?大師達も心配しているかもしれませんし」
「そうだな・・・・・・もう少し、見て回ろう?」
 時間をかけても無駄だろう。もしなにか異変が起これば、道三殿が真っ先に気付くはずだ。私が先に気付くことなど、ありえない。それに、森に入っても何も神力を感じなかった。
「無駄足、か」
 小さくつぶやいた。帰ろうか、お前の言うとおり皆が心配をするかもしれないしな。そう言いかけた。小狼の視線が、固まっていることに気付いた。
「どうし・・・・・・」
 いいかけて、風華は息を飲んだ。巨大な獅子が、そこに、いた。獅子はこちらに背を向けていた。
「魔獣!」
 だが、妙だった。獅子から神力を感じなかった。神力を持たない獣は魔獣ではない。だが、その獅子は、普通の獅子の二倍の大きさはゆうにあるであろう。ただの獣ではない、そう二人に感じさせた。
「轟!」
 獅子が吼えた。獅子が、ゆっくりとこちらを向いた。
「な」
 獣は、顔の右半分がなかった。よく見れば全身傷だらけだ。
「イタイイタイイタイ・・・・・・」
 獅子が呻いた。全身を、黒い蛇がおおった。
「イタイイタイイタイ・・・・・・」
 獅子が、また吼えた。二人は、蛇に睨まれた蛙のようだった。
 獅子が二人に突進した。
「よけろ!」
 風華が叫ぶ。はじかれたように、小狼も動いた。なんとか、かわす。右肩を、蛇がかすめた。
「あつっ」
 小狼が、かすめた肩を見る。蛇が、そこに、いた。
「うわああああ!」
 風華が刀を抜いた。小振りな、刀だ。白狼に、もらったものだった。
 風華が、刀に神力をこめる。刀が、光だした。そのまま、蛇の頭を斬る。
 頭を失った蛇は、消えていった。
小狼、大師達を」
 獅子は、止まったままだった。
「姉さまは」
「ここで、こいつを食い止めておく」
 獅子が、また、動き出した。
「早く!」
 小狼が、跳んだ。木々を、つたっていく。
「二十分といったところか」
 風華が刀を構える。獅子が、向きを変えた。
 そこで、風華は初めて気付いた。
獅子の眼が死んだものの眼だと。


「五分と、いったところか」
 道三が、駈けながらいった。
 小狼の話を聞いて、すぐに白狼が駈け始めた。炎双があとを追った。
 道三は、瑶に小狼を託すと、すぐに駈け始めた。
 小狼は、言い終わってすぐに気を失っていた。
「神力を発しない魔獣・・・・・・」
「それの話をしにきたのだがな」 
 炎双が話し始めた。最近魔獣が殺されている。そしてその中には、死んで後も、動く奴がいると。
「正確には、動かされている、だろうがな」
「そして、黒い蛇か」
「見えたぞ・・・」
 白狼が、口を開いた。人影が、見えた。黒い影も、見えた。