小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫(14)

あやかし姫~姫と火羅(12)~

「どれだけ、お前に目をかけてきた! ああ! 思い出せ! 思い出すんだ! 忘れたとは言わせない! お前に闘い方を教えたのは誰だ! お前の術は、狐火の吐き方も変化の仕方も、誰が教えた! この私だ! 葉美にも、木助にも、教えはしなかった! お前にだけは、…

あやかし姫~姫と火羅(11)~

「黒之丞……ありがとな」 金銀妖瞳の妖狼が、油断なく玉藻御前を見据えながら、化け蜘蛛に言った。 「むぅ……しかし、どうしたものだろうな」 玉藻は、九尾を、扇の骨のように広げた。金の尾の一つに、青白い炎が灯った。 九つの尾全てに火が宿ったとき、多分…

あやかし姫~姫と火羅(10)~

玉藻御前は、ゆっくりと月を見上げた。 宙に浮かぶ黄金は、靡く薄雲に隠れようとしていた。 白毛の下の喉の部分の肉が小刻みに震えている。謳うような、嘆くような、そんな音が大気に満ちた。 太郎は、真の姿を現した大妖から、姫様の姿をした者に金銀妖瞳を…

あやかし姫~姫と火羅(9)~

鬼姫、鈴鹿御前―― 鬼の王、酒呑童子―― 土蜘蛛の翁―― 鞍馬山の大天狗―― 四国の太三郎狸―― 「大妖」 そして、玉藻御前―― 「……教えてもらえるかしら」 「……なんであろうや」 「皆を眠らせたのは……貴方なの?」 「……くつ」 小さく、嗤い声を零す。玉藻御前は、眉…

あやかし姫~姫と火羅(8)~

森の中の、小さな庵。 化け蜘蛛が一匹、琵琶弾きが一人。 「狐か……」 そう、呟いた。 白蝉は、琵琶を奏で続けている。 優雅な音が、暗い庵から静かな森に流れていく。 黒之丞は、琵琶の音を聞きながら、友である黒之助の言葉を思い出していた。 狐が、多くな…

あやかし姫~姫と火羅(7)~

「眠れないの?」 「眠れないわ」 「そう……」 身体を起こすと、姫様は、薬箱をがさごそと。 竹の皮の包みを取り出すと、 「あまり、使わない方がいいのですが……」 そう前置きして、包みを開けた。 「これは?」 「眠り薬です」 「ふぅん」 丸薬を一粒口に含…

あやかし姫~姫と火羅(6)~

文を、姫様は送った。 鈴鹿御前に、酒呑童子と朱桜に。同じ大妖の言葉なら、玉藻御前も聞き入れてくれるだろうと思ったのだ。 数日経っても、音沙汰がなかった。 苛立つ姫様に、ぽつりと、 「お力を貸してくれないんじゃないかな」 そう、葉子が言った。 姫…

あやかし姫~姫と火羅(5)~

「ああ、いいとこに来たね」 にやりと嗤う、妖狐の大妖。 金銀九尾の美しい女は、部屋いっぱいに尾をくねらせていた。 「玉藻御前様、これは一体?」 金の一族と銀の一族が、館の前に集結している。 玉藻御前は、それを、嬉しそうに二階の自室から見下ろして…

あやかし姫~姫と火羅(4)~

「いっつ……」 轟煙を巻き起こすと、それは、止まった。 地に、擦り痕。 星が、落ちた。 銀狐は、朱桜ちゃん、よくこんなもの扱えたなと、腰をさすりながら思った。 目的地から随分と離れてしまった。 力を吸い取られた。 頭領の馬の乗り方も相当に荒いが、こ…

あやかし姫~姫と火羅(3)~

真紅の妖狼の姫君を運び、幽閉し、そのまま監視の任に就いた妖達は、暇を囲っていた。 思い思いに時間を潰してはいるが、元来が荒くれ者。 早く何か起こらないものかと、心待ちにしているところであった。 「あの札……相当に、強いものだな」 「だな」 退屈し…

あやかし姫~姫と火羅(2)~

「きゅ、九州へ?」 「じょ、冗談でしょう!」 「……火羅さんに、会いに行きます」 それだけ言うと、姫様は白刃に跨った。 「ま、待ちなさい!」 葉子が慌てる。黒之助が大口を開ける。 姫様は、暗い表情を浮かべていた。 温泉旅行も無事に終わり、頭領や妖達…

あやかし姫~姫と火羅(1)~

「どこへ連れて行くというの?」 答えはない。 火羅は、ごとと揺れるようになった車の中で、ころと横になった。 築いてきたものを見事に失った。 残ったのは徒労感だけ。 誰も私に味方してくれなかった。 可笑しくなり、思わず薄笑みが零れるほどに。 真紅の…