小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

#小説

あやかし姫~跡目争い(42)~

一人で抱えきれなくなった。 いや、そうではない。 薄々感づいていた。 自分の知らない誰かが古寺にいることに。 隠れ潜んでいたその誰かは、気侭に出歩くようになり、火羅を助け、大妖を退け、鬼ヶ城を救った。 「私は知りたくて――知りたくなかった」 鬼ヶ…

あやかし姫~跡目争い(41)~

「鈴鹿! 闇雲に打ち合って勝てる相手じゃない」 耳を頑なに塞いでいた。 心を怨みで堅めていた。 ああなっては止まらない。わかっていても、藤原俊宗は呼びかける。縁を捨てても、鬼となっても、添い遂げようとした女の名を。 「聞く耳もたないか」 顕明連…

あやかし姫~お金を得ようとする話~

「……なかなか買ってくれないわね」 獣の尾で飾った傘の下、膝を曲げた艶やかな少女が、はふっと暇そうにため息をついた。 七星天道をしっしと払い、緑黄金を戯れに弾く。 わざわざこの日の為に黒く染めた髪を、火羅はくしゃりと掻き乱した。 道の端に藁敷を…

幽霊と妖怪

幻譚奇談怪談でよく語られる幽霊と妖怪。 肩を並べたのはごく最近だそうな。 天狗、鬼、河童、九尾、幽霊、つまり幽霊は妖怪のカテゴリー内にあったそうな。 それが同格になったのは、個々の幽霊に名前が付くようになったから。つまりは人格を持ったから。 …

遠野物語remix

こんなの出てたの! 京極先生×柳田御大! 妖怪小説の第一人者、京極先生が遠野物語を解体and再構築! 武者震いがしますな!!! ……その、京極先生、大変言いにくいことなのですが、百鬼夜行シリーズの続きマダー? 鵺の碑何年も待ってるんすが(´・ω・`)

あやかし姫番外編~弟子の少年と師の少女~

小高い丘の小さな庵に、暖かな気配が満ちていた。 庭で花を咲かせる紅梅に白梅、鶯が朗々たる自慢の喉を披露し、目白が忙しなく枝の間を飛び回る。 視界を満たす柔らかな光、鼻孔をくすぐる仄かな匂い、肌に触れる穏やかな風、古池の水芭蕉には眠りから目覚…

跡目争い(40)のあと書き

たまには。 つらつらと書き連ねてる跡目争いも(40)になってしまったので、あと書きでも。 読んでくれてる人がどれだけいるか知らんけど。 跡目争い(1)は2009/2/13か……終わるのか、これ。前も終わる終わる詐欺やったなぁ……シミジミ。 話の形はあるんだけど、…

あやかし姫~跡目争い(40)~

「ごめんね、太郎さん」 「うん」 「ごめんね、ごめんね、太郎さん」 「もう、こんなこと――俺にさせんなよ。絶対にだからな。絶対にさせないでくれよ」 大きな白い狼が、少女を咥えていた。 頭を起こした白い少女が、牙をたてる狼の鼻に何度も触れた。 「み…

「死神を食べた少女」を読んで

何これ、面白い(´・ω・`) こういう主人公を書きたくて、愉快な呂布一家を書き始めたんだよなー。 無邪気な女の子がいっぱい食べていっぱい殺すよーなお話。 鎌持って、騎兵隊で、あだ名が死に神で、兜嫌いで――むむむ。 こっちは呂布なんだから、強いよねで…

古のお化け文筆家(民俗? 宗教? 粘菌? 妖怪!)

ちょっと巷で話題になった青空文庫のお話でもお一つ。 と言うのも、二月の野郎があっちう間に逃げ去り、何故か三月君がお目見えしてしまいましたのです。非常に困ったもんです、はい。 でもね、季節の変わり目変化の季節! 文化的な話でもしてかしこそーな雰…

あやかし姫~真ん丸姫様~

「おあげ、おあげ、油揚げ、っと♪」 台所で気分良く唄うのは、見目麗しい妙齢の女。 頭に狐耳、お尻に狐尾。 どうみてもただの人ではない。 そう、それは、妖怪であった。 遠く天竺や唐で名を馳せた九尾の狐、玉藻御前に連なる女怪である。 女怪――葉子は、ぴ…

あやかし姫~跡目争い(39)~

葉子の白い爪、朱桜の黒い霞。 姫様に接するほんの僅か、ぎりぎりのところで、押し止まった。 「どうしてさ、姫様。どうしてなのさ」 揺れる白尾、立ち上る八本の影。 隻腕の女怪は、自分の命を磨り減らし、かっての姿を取り戻す。 「何故なのです、彩花姉様…

書いてて楽しくないトナ

珍しく後書き、といってもお話は続いてるけど。 最近のマイブームが狩猟と古本屋の本で、じゃあ、元ネタにして書いてみるかと。 狩り、してないけどね。古本屋どこ行った。 狩り班は太郎と黒之助・黒之丞。 って、これ、肉食獣の狩りになるやん……ま、まぁ、…

あやかし姫~河童沙羅の憂鬱~

鼻歌、枯れ秋草、揺れる尻尾、枝振り見事な古木の影。 柔らかな日の差す森の中、たいそう機嫌の良い火羅を、沙羅は遠慮がちに眺めていた。 新鮮な驚きに少なくない薄気味悪さを感じる機嫌の良さ。 とはいっても、妖狼の姫君をよく知っているわけではないのだ…

あやかし姫~妖狼料理~

怖い顔をした火羅が、包丁を睨みつけていた。 大丈夫かなと姫様は、火羅のすらりと白い手元を見ていた。 握り方は大丈夫。 猫の手のように指を丸めている。 うんと火羅が頷いた。 がつん――姫様は、びくりと肩を揺らした。 がつん、がつん、ざくり、ざくり――…

姫様と火羅のお話、現時点でのまとめ

だらだらとやってるあやかし姫。 その主役である彩花と火羅がメインの短編まとめ。 火羅が古寺に住むようになってからのお話、大体一話完結。 大きな事件はなくて、些細な事に一喜一憂してるものばかり。 元々、そういうのが書きたかったんだけどね。 妖狼、…

あやかし姫~尾を漉く話~

細面の女が少女に寄りかかっていた。 白髪白面そして隻腕――女は、艶やかで儚げな容貌をしていた。 長い黒髪、薄く桃色を帯びた白い肌、毀れそうな華奢な肢体――少女は、可憐であった。可憐さの中に、色香がふっと滲み出していた。 女は名を、葉子という。 少…

あやかし姫~跡目争い(38)~

微笑んでいた。 黒羽色の衣。漆黒の髪。薄桃色の頬。白く細い両腕を、胸の前で組んでいる。 嬉しそうに少女は立っていた。 嬉しそうに、心底嬉しそうに――そう見えるように。 「姫様、なんだろうな」 太郎は、大顎の奧で、消え入りそうな声を発した。 「はい…

あやかし姫~火羅の日記~

某月某日 彩花さんのつけている日記というものを、この私、火羅もつけてみようと思う。 真っ白な日記を目の前にすると、思わず心が弾んでしまう。気前よく日記をくれた彩花さんに感謝。 しかし、後ろから覗こうとしたのは頂けない。 自分は見せてくれないく…

あやかし姫~跡目争い(37)~

異国の武将と向かい合ったとき、大獄丸は怯んだ。 歪む景色の中、今まで、自分が怯んだのは、義妹と義兄だけだと思いながら、大太刀を向けた。 昔――遙か昔、大獄丸は、荒くれ者達を束ね、山賊紛いの暮らしをしていた。 それなりに名を挙げたとき、突如根城に…

あやかし姫~風鈴と桃と爪~

火羅は、古寺の軒先に吊された風鈴を取ろうとした。 お椀型の青銅製、白い短冊を揺らしながら、ちりんと涼しげな音色を響かせる風鈴であった。 「うーん」 届きそうで届かない。 背筋を伸ばしても、膝を伸ばしても、足の裏を伸ばしても、すいと逃げられる。 …

あやかし姫~家出の裏で~

「うーん」 割れた器を前に、頭を悩ませる姫様。 長い呪言を唱えるも、器は元通りになってくれない。 「姫様、火羅が外出したさよ?」 「火羅さんが!?」 ぼんと破片が煙をたてる。 また失敗である。 ううっと姫様は肩を落とし、 「火羅さんが、どこへ?」 …

あやかし姫~火羅、家出する~

地面に映る影を追い、紅髪の少女は歩を早める。 着崩した華美な着物、露わになった両肩が上下する。 紅潮した頬には涙の痕、形の良い眉が忙しなく動く。 時折はみ出る尾を押さえ、妖狼の姫は彷徨っていた。 「……どこよ、ここ」 古寺を降り、ふらふらと歩き、…

あやかし姫~跡目争い(36)~

「なるほど、これは興味深いですね」 中肉中背の亡者の後ろに、男が一人立っていた。 周囲の亡者は、忙しなく動いているというのに、冷笑を浮かべる男に目を向ける事もしなかった。 三つに分かれた亡者達。その一つの中心である。鬼や狸も、堅く阻まれ、ここ…

あやかし姫~跡目争い(35)~

鬼ではない。 亡者である。 西の鬼と化け狸が、力を合わせて、亡者の群れを突き進んでいく。 「四天王も、二人だけ、か」 金熊童子と熊童子が西の鬼を率いていた。 化け狸を率いているのは六右衛門である。 短刀や匕首を振り回し、中には獣の姿になって腹太…

百鬼夜行・陽

京極シリーズ最新作。 様々な登場人物達のサイドストーリーが語られていく。 冒頭、青行灯であっとのけぞってしまった。 あの伯爵様は、百物語シリーズと関係があったのかと。 各々の作品が蜘蛛の巣のように絡まっているのが京極先生の特徴だけれど、ここま…

あやかし姫~跡目争い(34)~

それは餓えていた。 だから嬉しかった。 何故ここにいるのかわからない。 何故命じられたのかわからない。 主と名乗る慇懃な男は、この地の妖怪を狩れと命じ、虎の化け物を共に付けた。 自分に命じる事が出来るのは叔父だけである。 そう思い、道中、主に従…

あやかし姫~跡目争い(33)~

にこにこと聞いている末姫に、太郎はぽつぽつと話していた。 童の居場所は太郎の頭上。 話すのは古寺のことである。 姫様が来てからの事を話した。 姫様と一緒に過ごした時間は、古寺で太郎が過ごした時間から見れば短い、けれど話は尽きず、記憶は鮮やかで…

あやかし姫~跡目争い(32)~

何が一番大事なのか、葉美はわかっているつもりだ。 物事に優先順位をつけ、粛々とこなしていく。それが上に立つ者の使命であり責任だった。 今も同じ、子を守ることを至上とした。 そのために使える駒は二つ。 彩花という娘と、妖狼の姫であった火羅だ。 ど…

孟嘗君読了

Muさんの勧めに従って、宮城谷先生の孟嘗君を読み終えましたー。 読み応えのある全五巻、相変わらず説話が目白押し。 ある程度知ってないと辛いかもねー。 孟嘗君の養父、白圭の時代から、親子二代にわたって描いていくこのお話では、同時代の偉人が綺羅星…